大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和26年(う)194号 判決

論旨は原判決認定の麻薬中コカイン溶液は昭和十七年当時被告人が肥厚性鼻炎治療の為医師高橋喬から交付されたものであるから、被告人が之を判示昭和二十五年五月当時所持していたとしても麻薬取締法第三条第一項但書に所謂「麻薬を麻薬施用者から施用のため交付を受け所持することはこの限りでない」とあるに該当する。而して被告人は原審公判に於て右事実を主張したのに原判決は之に対する何等の判断を示さず、単に被告人が麻薬を所持していたとのみ認定したに過ぎないのであるから原判決には判断遺脱又は判決に理由を附さない違法があると主張するのである。

然るに原審の審理の過程を記録について検討すると、被告人並に弁護人は原審に於て単に判示コカイン液の取得当時の事情を述べたに止まり必しも麻薬取締法第三条第一項但書に該当する所謂法律上犯罪の成立を妨げる理由となる事実として之を主張したものとは認められない。原審最終弁論に於ても被告人は単に取締法規の不知を弁解し弁護人亦犯行の動機、情状並に科刑の点に触れ執行猶予又は軽い罰金刑を望む旨述べてるに過ぎないのである。故に原審が刑事訴訟法第三百三十五条第二項の主張がなかつたものとして判決をしたことは違法ではないし又此の点につき審理を尽さなかつたとも認められない。

のみならず刑事訴訟法第三百三十五条第二項所定の主張があつたときは判決に於て之に対する判断を示さなければならないとし若し判断を欠くときは右主張に該る事実を被告人が証明できないことが審理の過程に於て明確になつている場合等の如く、結局判決に影響を及ぼさないことが明であるという場合を除き判決破棄の原因となるであろうが、論旨に従えば、本件に於ける主張は右法律施行以前たる昭和十七年当時医師から施用の為交付された麻薬の残りが右法律施行後依然として被交付者の手中に残存していたという事実に基くのであり、麻薬取締法第三条第一項但書は斯る法律(含麻薬取締規則)施行以前に医師より施行の為交付を受けたという如き事実を含まず、但書所定の事由は右法律施行後に於てのみ存在し得ると認むべきであるから、結局論旨主張の如きは事実自体右但書に該当しないというべきである。左れば原審が、右点に関し判決に於て何等の判断を与えなかつたとしても違法ではない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!